#04  平間博之さん (革職人/仙台市)

わたしを形成する5つのパーツ

誰もが持っている「自分を形成しているもの」

それをゲスト本人に5つ選んでいただき、

どういう人かを紐解いて行きます。

4人目のゲストは革職人の平間博之さんです。

 

最初に、平間さんのプロフィールを。

 

平間 博之

1986.7.31 宮城県岩沼市出身

東北工業大学工学部デザイン工学科在学中に革を用いた鞄・小物の制作を始める。

卒業後、2011年にイタリア・フィレンツェへ短期留学し鞄の製造を学ぶ。

帰国後、「Leather Lab. hi-hi」として革の鞄・小物を中心とした制作・販売を始める。

展示会等も行いながら、オーダー・セミオーダーの受注生産も行っている。(HPより)

 

http://hihi-l-l.tumblr.com/

 

 


1.革

──よろしくお願いします!

ではまず簡単に自己紹介をお願いします 。

 

「レザーラボ hi-hi」という名前で、カバンを中心に革の小物を作っています。革の可能性を高めたいと言う思いから、革の特徴を生かした面白い使い方を探求しながら作っています。普段は大学で授業や学生のサポートをする仕事をしています。 

 

──ではワードについてお伺いしていきたいのですが、まず最初の「革」に関して、このワードを選んだ理由は? 

 

大学3年の頃、授業で個人制作という時間があって。最初のきっかけはカバンを作りたかったことなんです。その頃は「革」ということに特別こだわりがあった訳じゃなく、単純にカバンを作りたくて(笑)。最初は布のカバンから始めて、そうすると必然的に素材として「革」が出てくるんですが、当時「ラグジュアリー」や「大人っぽい」というイメージに対して苦手意識がありました。 

 

──もう少しカジュアル寄りの方が良かった? 

 

切り崩したいとか、人が手に取りやすい、力まずに手にすることができないかなと思って、革に手を出したっていう感じ。苦手意識を持ったまま、それを変えれたらなっていう意識で革にずっと触ってます。 ある種、挑戦ですね。実際使ってみると面白さが分かってきて…革の良い部分っていうのは、完成している新しいものよりも、個人が使っていって、ストーリーが出来て、だんだん味わいが見えてくるその時こそが一番かっこいいと思えるようになりました。お客さんに商品をお見せすると、「新品よりもあなたが使ってるそれの方がいいわ」って言われる時があって(笑)革の面白い部分って、かっこよさだけじゃないそういう魅力だと思う。それを小さいものからでも伝えられたらいいのかなと。そういうことを考えながら革と向き合っています、悩みながら(笑)  「私にはまだ革のカバンは早い」「革って高いんでしょ?」という人が結構多いので、そう思ってる人にでも手に取ってもらえるものを作りたいですね。自分自身苦手意識があったので、こんなに面白いものを作れるよとか実はこれも革だよという感覚が強いかもしれません。 それとオタクっぽいところもあって。革を食べたこともあるし(笑) 

 

食べられるんですか!?

 

有害ではないものもあるんです!美味しくはないですけどね(笑)タンニンなめしという、植物の渋を使った自然なテイストのあまり化粧をしていない革をメインに使ってるので、傷や動物の血管の跡とか残ってたりするんです。 そういう表情をできるだけ残して、環境にも無害な「なめし方」があって。知り合いの職人さんがいうには、本当にいい「なめし」をされた革は、食べられるよって言っていました(笑)オススメはしませんが…。

 

 

──元々、革は生き物からいただく素材なので、そういうヒストリーも見え隠れするようなイメージで作品と向き合ってるんでしょうか?  

 

革って人が食べる食肉から取れた副産物なんですよね。 生き物から授かってるものなので、できるだけ無駄にはしたくないという気持ちがありますね。 カバンや小物を作って、それでも小さい革の端切れが出るので、できるだけ何かにしたいなと思ってピアスにしてみたり。 カバンには使えない傷が入ってる部分は、それを活かしてコースターにしたらいいかな、それもワンポイントでかっこいいんじゃないかなって。 そういうものの見方でできるだけ無駄にしないように使いたいなって思ってます。革に触れ合ったことが少ない人にも、 これなら使ってみたいなと思ってもらえたり。 革の端っこでも、経年変化は楽しめるんですよ。  


2.独学

──では2番目のワード「独学」にいきましょう 

 

大学時代に個人制作でカバンを作り始めたことが、革を手にするきっかけになったんですが、当時の先生は、鋳物(いもの=金属を溶かし、鋳型に流し込んで器物を作ること)を専門とする方だったので、革の専門的な技術を教えてもらうことはありませんでした。造形の表現方法や美しさという部分は学んだんですけど、カバン作りに関しては8、9割くらいが手探りしつつ独学で試行錯誤しました。 大学卒業した時におそらく変なプライドがあったのか、作りたいものを自分の手で1から10まで作ってみたいっていうのがあって、なんだかんだで人から教わるタイミングを逃して(笑)最終的に独学で今もやってきて、常に迷ってる…頭抱えながら舌打ちしながら(笑)うまく作りたいっていう気持ちが、もっともっとやってこうという想いに繋がってるのかな。 そんな中でも、知り合いの職人さんが増えてきて困った時はミシンの使い方を聞いたり。独学でやってるからこそ教われる時にはとことん聞いてみようとか。 

 

分からないんだから聞いてみよう、やってみようという精神から生まれる形があるんじゃないかってずっと思ってます 。自分で常に考えて、これがベストなんじゃないかな、「こうしたらどうだろう」「なんでここをこうしてないんだろう」と疑問を持ったり、「こうしたらもっと便利なんじゃないか」とか、「面白いんじゃないか」とかルールがないからこそできるんですね。 

 

 

独学でやってきてるからこそ、出せる個性があるんじゃないかなって思っています。 その個性を34年前にすごく出そうとしてた時期があったんですけど、ある時からそれすら煩わしくなってきて。自分本位で作れなくなったというか、お客さんの意見も聞きますし、自分だけの思いじゃない使う人のためのモノって思うようになってきて。逆に「自分らしさ」を意識しなくなってきた時に、知人から作品に対して「あなたらしいね」って言ってもらえて。「あぁ、出てきたんだな」 っていう。自分らしさを出そうとしてきて、それが自然とできるようになってきた。独学で悩みながらやってきたことが自分らしさを出すようになってきたのかなと。 


3.フィレンツェ

──次のワードの「フィレンツェ」はいかがでしょうか? 

 

久しぶりに大学時代の先生にお会いした時に「今も革でものづくりをしています」という話をしたら、「留学でもすればいいじゃん」って言われて。それが魔法の一言でした。全然考えてなかったんですけど、じわじわと気持ちが強くなりました。周りの人たちにも、作品を欲しがる人はきっといるから作ってみたら?と言われ、それでやっぱり留学してみようかなって。 

 

──フィレンツェを選んだきっかけは? 

 

イタリア、フランスをはじめヨーロッパは革の産地としてものづくりの文化が根付いているんですよ。特にイタリアのトスカーナ地方は革の産地として歴史がある上に有名なので、一度見てみたいな、本場のものに触れてみたいな、と。それで決意しました。…前のワードで独学って言ってるんですけど(笑)自分で作っていきたいという気持ちは捨てたくなくて、ガチガチの本気留学はやめようと。 2ヶ月だけという期間を決めて、工房を紹介してもらってそこで初めて人に教わる工程体験をして。  

 

授業がない時間は無駄にしないように、とにかく街を歩きました。地図も開かずに行き当たりばったり。「○○はどこですか?」というイタリア語を覚えて、行く先々で人に聞きました。 ずっと人見知りだったんですけど、そんなことは言ってられなくて、いろんな人と話すようになりました。 いろんな職人さんがいるので、気になる工房を見つけたら「ちょっと見せて」と言い見せてもらったりして。  

 

実は留学をしていたのは、ちょうど東日本大震災の時期だったんです。ある日、母からのメールで震災のことを知りました。家族は無事って連絡はきてたけど、勉強どころじゃなくなってしまって。糸が切れちゃったんですよね。 勉強したいけどそんな場合じゃないし、家族、友人、家のことが心配でそんな気持ちにもなれなくて。  

そんな時、面識もなく、顔も全く知らない日本人の方が、知り合いの職人さんを通して僕に100ユーロくれたんですよ。僕の話を聞いてこれをその人に渡してと。でも面識のない人から突然お金はいただけないと一度はお断りしたんですが、その方も何かしたいけど、どこにお金をあげたらいいかわからないから、困ってる人に直接渡して使って欲しいって言われました。 でもお金をもらってもどうしたらいいんだろうって思って…そしたら仲の良い職人さんから「こうしてても何もできないんだから、お礼がわりになんか作ったら?」って言われて。それがきっかけで机に向かうようになりました。ちょっとした革のブレスレットを作り始めたんですよね。1本10ユーロで売ったら、いろんな人が欲しい、買うよって言ってくれて。無気力だった自分は、あの100ユーロで救われました。ひたすら作って、買ってくれる人に売って。できるだけ人に会って。そうして何かが繋がったらいいなって。 200本ぐらい作って、100人ぐらい買ってくれた方に直接お会いして、写真を撮りました。 

 

最悪な状況だったかもしれないけど、こんな短期間にたくさんの人に会った経験をした人はいないと思うし、本当に貴重な経験したなと思います。日本に帰ってきた今でも繋がってる人もいます。 留学と震災をきっかけにして、「好き」だけでやってるだけじゃなくて、作らせてもらってる。ありがたく作らせてもらってるなって思います。  

 

 

あの時ブレスレットを買っていただいた方に、また会いに行きたいなと思いますね。震災から6年、自分がもっと作り手として成長したら手土産を持って行きたいな。忘れてる方も多いと思いますけどね。忘れてても会いに行ってその時作ったブレスレット見ながら思い出してもらえたら。  


4.工作

──では次のワード「工作」ですね 

これは自分が作品を作る上で大事にしてる部分で、どんなに好きで作ってても「仕事」としてやっていると辛くなることってあるじゃないですか。そこで生みの苦しみが嫌にならないように、「束の間の休息」的感覚で仕事以外の作品を作る時間を設けています。異素材を触って完成した時のワクワク感を取り入れたい。新しい空気を入れる、窓を開けるような。大きい作品で長い間作業した後に、一息つくように違うものを作りたい、違うものを作る。それが純粋に楽しめるし気分転換になります。木でスプーン作りしたり、テーブルの脚を作ってみたり。自転車をバラしてみたり。 実はこの服インタビュー時に履いていたパンツ)も作ってみたりとか…(笑) 

 

──革の作品とは別の工作ということですね。 

 

そうです、革の工作は束の間じゃできないので(笑)「束の間の工作」って言って、別のものを作成する、利益にはならない時間ですね。 一時期パンを作るのにはまったりもしてました(笑)植物の植え替えとかもあります。楽しさの確認というか、新鮮な気持ちになれる。いつも目を向けてるものとは違うものに触れて作ることを純粋に楽しむ時間です。 

 

──別なものを作るときは調べたりするんですか? 

 

基本瞬発力ですね。67割ぐらい下調べしてスタートしちゃう。 それの延長になるんですけど、自分の工房をハーフビルドで出来ないかなって思ってて(笑) 自分で出来ない部分はプロに任せて。できる範囲で内装など楽しみながら出来たらいいな。  

 

──いいですね、今作品作りは自宅で? 

 

自宅の一室でやってます。 自宅にミシンと革すき機ぐらいあれば出来ちゃうんで。あとは材料。6畳一間でちょっと手狭な感じでやってるんで、アトリエを作りたいと(笑)来年ぐらいまでにできたらいなと思いますね。瞬発力大事にしないと、熱が冷めちゃうんで(笑)


5.動物

──では最後のワードは「動物」ですね 。

 

犬とリクガメを2匹飼ってて。 2年前に自宅を再建して空間ができたので。昔から動物が好きで、抑えてた衝動が爆発して動物に囲まれた生活しています。 小さい頃は犬やを拾ってきたり、鳩を拾ってきたりしてました(笑) 

 

鳩!?

 

怪我をして飛べない鳩を拾ってきたんです。少年が虫取り網で鳩を捕まえて(笑)クワガタ採ったり、金魚を飼ったりもしてましたね。 出会ってしまうと抑えられないんですね(笑) 犬は最近飼い始めました。生き物がいるっていいでよね、制作の息抜きにもなりますし。 夜中に起こしてかまってもらったり(笑)首輪やリードを革で作ってみたりもするようになりました。そういう幅が広がりましたね。今のところはこれ以上動物は増やさないように、大事にして行きたいと思います(笑) リクガメはヒガシヘルマンリクガメっていう種類で30センチぐらいまで大きくなる種類です。動物と図工が大好きだったので、進路を考えるときも作る方面か動物に関する仕事かでぼんやり考えてたぐらいです。だから生活の中にいてくれたら楽しいなと思ってます。  

 

 

──今後の活動はどうしていきたいというのはありますか? 大学の仕事と革のお仕事の比重について。 

 

 

半々ぐらいでやれたらいいなと思ってます。 教育と研究の場にいることで、自分も吸収する部分もあるので、今はこの環境で二足のわらじで働いていきたいですね。ここに携わってるからこそ関われる人というのも増えたので。 異業種の人たちと一緒に活動することもできるようになったのは、この環境だからこそできることだと思います。革のボタンを木のボタンにしてみたり、革だけにとらわれず、いろんな人たちと繋がって作品を作る為のいろんなことにアンテナを張って行きたいなと思ってます。 自分一人で家にこもっていたらできないような、異業種との人との関わりから作れるものを増やしていきたいですね。  


型が決まっていないからこそできること、変なプライドが邪魔しないからこそ見えるもの。

「独学」からスタートした平間さんだからこそのお話に、深くうなづいてしまいました。

 

次回はどんな「ひと」のどんな言葉が聞けるのか楽しみです。お楽しみに〜☆